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LACTONE

CHEMISTRY

ラクトンとは?香りの化学用語と桃らしい香気の関係

先に答えると:ラクトンは化学構造の分類、「ミルキー」「クリーミー」は香りの印象を表す言葉です。ミルキーなニュアンスに使われるラクトン素材もありますが、名前だけで香りや処方を決めることはできません。

ラクトンは「環になったエステル」

IUPACの定義では、ラクトンはヒドロキシカルボン酸の環状エステルです。簡単に言えば、同じ分子の中にある酸の部分とヒドロキシ基がつながり、輪を含む構造になった化合物のグループです。

ラクトンはエステルとは別の並列分類ではなく、エステルの一種です。エステルのうち、ヒドロキシカルボン酸に由来する環状構造を持つものがラクトンです。一般のエステルには環状でないものも含まれます。

この分類は化学構造を説明する言葉で、香りの分類とは別の軸です。ラクトンに属する化合物をすべて同じ匂いだと考えるのは正確ではありません。

桃の香りも、ひとつの分子だけではない

桃の香気を分析した研究では、複数の揮発性化合物が見つかっています。2021年の「玉露」桃の研究では、γ-デカラクトンやδ-デカラクトンを含む複数の成分が、分析と再構成・省略試験を通じて香気に関わる成分として報告されました。対象は特定の品種と試料です。

2026年の桃・ネクタリン研究も、44品種から80種の揮発性化合物を分析し、化学分析と官能評価を組み合わせています。桃らしい印象をラクトンひとつだけに置き換えられないことが、こうした複合的な測定からわかります。

「ミルキー」は感覚語、ラクトンは構造の分類

香水の説明にある「ミルキー」「クリーミー」「ココナッツのよう」といった言葉は、香りの印象を伝える表現です。一方、ラクトンは化学構造の分類です。Symriseの調香用素材資料では、ラクトンに分類されるLactojasmoneが、花の調香にクリーミーな厚みを加えたり、サンダルウッドにミルキーなアクセントを与えたりする素材として紹介されています。これは個別素材の説明であり、すべてのラクトンが同じ香りという意味ではありません。

乳製品の研究でも、クリームらしい香気を単一の成分だけで説明できるとは限りません。脂肪分30%の加熱殺菌クリームを調べた研究では、34種の香気活性揮発成分が見つかり、複数のラクトンも検出されました。個別のラクトンを加えた試験で典型的なクリーミーさを高めたのは、閾値を超えて加えたδ-テトラデカラクトンでした。この結果は食品の試料・条件に限られ、香水の処方を示すものではありませんが、「ラクトン」という分類だけでミルクらしさを決められない点を考える材料になります。

香水の商品説明に「ミルク」「クリーム」「ラクトニック」とあっても、その言葉だけでは乳成分や個別の香料、配合量、完成品の処方は特定できません。甘さや果実らしさなど、説明のどの印象が自分の好みに近いかを確かめ、可能なら製品表示に沿って試香しましょう。ムエットと肌での比べ方は香水を買う前の試し方、ノートとアコードの読み方は香水ノートのガイドで紹介しています。

体臭研究で扱われるγ-ラクトンC10・C11については、研究結果と商品説明の読み分けで、調査対象と分かっていないことを整理しています。

次に読む

桃の香りに関わる化合物を具体的に見たい方は、γ-デカラクトンの研究とδ-デカラクトンとの構造・香りの違い、γ-ウンデカラクトンの名前と桃様の香り、桃の香気成分をまとめた解説へ。ムスクとの違いは化学構造と香りの表現を比べる記事で扱います。

参考文献・出典

  1. IUPAC Compendium of Chemical Terminology: lactonesラクトンの化学的定義。
  2. IUPAC Compendium of Chemical Terminology: estersエステルの定義。ラクトンとの分類関係の説明に参照。
  3. Niu et al. (2021), Characterization of the major aroma-active compounds in peach特定の桃品種を用いた香気分析と再構成・省略試験。
  4. Zhu et al. (2026), Integrated molecular sensory profiling reveals the distinct aroma signatures of peach fruit types桃とネクタリンなどの香気プロファイルを比較した研究。
  5. Symrise, Lactojasmone — Perfumery Ingredients調香用素材の分類と、クリーミー/ミルキーな使い方の個別例。全ラクトンや完成品の処方を説明する資料ではない。
  6. Schlutt et al. (2007), Sensory-directed identification of creaminess-enhancing volatiles and semivolatiles in full-fat cream脂肪分30%の加熱殺菌クリームを分析した食品香気研究。香水の処方や製品性能を示す試験ではない。