先に答えると:トップ・ハート(ミドル)・ベースノートは、香料の揮発性や香りの移り変わりを説明するための見方です。トップが何分で消え、ベースが何時間で現れると全製品に当てはめることはできません。香りのピラミッドは、製品の全原料や配合率を示す情報とは限りません。
「ノート」は分類と香調の両方に使われる
香料の資料では、トップ・ミドル・ベースを揮発性の異なる素材の分類として説明する一方、シトラス、フローラル、ムスクのような香調も別の観点として扱います。商品ページに香りの説明が並んでいるときは、時間経過を表すノートなのか、香りの印象を表す言葉なのかを分けて読みましょう。
香りの印象を表す言葉と、成分表示や配合率は同じ情報ではありません。「ラクトン」も香りの名前ではなく化学構造のグループです。香りの言葉と化学用語の違いはラクトンの基礎記事で解説しています。
アコードは、素材を組み合わせた香りの調和
アコードは、複数の調合素材を合わせ、全体として調和のとれた香りをつくる考え方です。日本香料工業会の技術資料は一般に二つ以上の素材の組み合わせとして説明し、鈴木隆の調香学習に関する記事は、学習過程で三種類以上の単品を混ぜて新たな香調をつくる例を紹介しています。素材数の説明は文脈によって異なるため、商品説明を読むときに固定の数を覚える必要はありません。大切なのは、素材の名前を並べたものではなく、組み合わせがひとつの印象にまとまっていることです。
| 言葉 | 何を表すか | 読み方の目安 |
|---|---|---|
| 香料素材・化合物 | 具体的な材料や化学構造 | 素材名だけでは、完成した香水全体の印象や処方は分かりません。 |
| 香調・ノート | シトラス、フローラル、ピーチなどの香りの系統や印象 | トップ・ハート・ベースは、時間による移り変わりを説明する別の使い方です。 |
| アコード | 素材を合わせて調和させた、まとまりのある香り | 「ピーチアコード」などの表現だけでは、桃由来の素材や特定のラクトンが使われているかは判断できません。 |
アコードやノートは香りを説明する言葉で、成分一覧や配合率と同じものではありません。化学構造としてのラクトンと、香りの印象を表す言葉の違いはラクトンとムスクの比較も参考になります。
トップ・ハート・ベースの見方
- トップノート:つけた直後の印象を形づくる、揮発性の高い素材のグループです。
- ハート/ミドルノート:香りの中心や、最初の印象から後半へ移る流れを説明する言葉です。「ハート」はミドルノートを指す場合があります。
- ベース/ラストノート:揮発性が比較的低い素材や、後半に残る香りの印象を説明します。書かれているだけで、肌の上での持続時間が決まるわけではありません。
「オードパルファム」「オードトワレ」などの濃度表示は、ノートとは別の情報です。公開資料ごとの目安を比べるには香水の濃度表示ガイドをご覧ください。
この三分けは便利な案内ですが、香りが三つの箱に分かれて順番に入れ替わると考える必要はありません。複数の素材は同時に香り、まとまり方は処方や試す面によって変わります。
固定の「何分後」は、試験条件と分けて考える
日本香料工業会の技術資料は、香料原料をアルコールで希釈して匂い紙につけ、室温で持続を観察する方法と、トップ・ミドル・ベースの目安を説明しています。これは素材を一定の条件で比べる方法です。完成した香水を肌につけたときに、全員が同じ時間で同じ段階を感じるという保証ではありません。
2025年の研究では、8種類の香料分子を含む試料の放散を、ガラス、モデル表面、匂い紙、人の前腕などで測る装置が検討されました。別の研究も、香料素材の印象や持続性は混合物、匂い紙、皮膚で変わり得ると扱っています。個々の研究条件を、すべての商品に共通する分数へ置き換えないようにしましょう。
ピラミッドは商品ごとの説明として読む
LACTONEトップページの香りのピラミッドは、ブランドの香りを説明するページ内の案内です。そこで示される時間表示はその説明として読み、他の香水に共通する基準へ置き換えないようにします。
ノートは香りを想像する地図のようなものです。ムエットと肌で香りを比べる手順は香水を買う前の試し方、製品ごとの持続時間を確認する方法は持続時間の見方で紹介します。
参考文献・出典
- 日本香料工業会, 周知慣用技術集 香料 第3部 香粧品用香料調香におけるアコードを、調合素材の組み合わせと調和として説明する業界技術資料。
- 鈴木隆「香りのデザイン」嗜好品文化研究 第4号, 22–33 (2019)調香学習の文脈で、ノート・単品香料・アコードの違いと組み合わせの練習を説明。
- 日本香料工業会, 周知慣用技術集 香料 第3部 香粧品用香料香料素材を揮発性・官能基・香調の観点から整理し、匂い紙による観察条件を説明する業界技術資料。
- Zarzo (2013), What is a Fresh Scent in Perfumery? Perceptual Freshness is Correlated with Substantivity香料の知覚と持続性を扱う査読論文。混合物、匂い紙、皮膚で知覚が変わり得ることを説明。
- Hadjiefstathiou et al. (2025), An innovative device for in vivo and in vitro study of fragrance evaporation after application on skin or model surfaces8種類の香料分子を含む試料について、匂い紙や人の皮膚など複数の面で放散を測定した査読論文。