先に答えると:体臭研究でいう「ラクトンC10・C11」は、主にγ-デカラクトンとγ-ウンデカラクトンという個別の化合物を指す呼び方です。人の皮膚から出る量や香りを調べた研究はありますが、年齢や性別だけで個人の体臭や印象を決められる、という意味ではありません。
C10・C11は、ラクトン全体の名前ではない
ラクトンは化学構造のグループ名で、体臭研究で出てくるC10・C11はその中の特定のγ-ラクトンです。ロート製薬の2018年の研究発表では、ラクトンC10をγ-デカラクトン、C11をγ-ウンデカラクトンとして説明しています。桃を対象にした食品香気研究で扱うγ-デカラクトンと同じ化合物名でも、食品・香水・皮膚ガスでは調べている対象が異なります。
γ-ウンデカラクトンの分子式や「アルデヒドC-14」という別名の読み方は、C11化合物の解説で整理しています。この記事では皮膚ガス研究の対象と、その結果から言える範囲を扱います。
化学用語としてのラクトンの定義はラクトンの基礎記事、桃の香気研究は桃の香り成分の記事で解説しています。
年齢や性差を調べた発表がある
東海大学理学部化学科は、2023年のにおい・かおり環境学会ポスター発表について、10代から50代の健常者の皮膚からγ-ラクトンの放散量を測り、女性では10~20代で高く年齢とともに減る傾向、男性では放散量がもともと少なく年齢依存性は見られなかったと紹介しています。J-GLOBALの書誌情報では、この題目は学会講演要旨集に載った2ページの短報として登録されています。
これは研究対象の集団での傾向です。公開されている大学紹介と書誌情報だけでは、すべての測定条件や個人差を詳しく評価できません。特定の年齢になれば誰でも同じ香りになる、という基準として使うことはできません。
メーカー発表は、試験方法と一緒に読む
ロート製薬の2018年発表は、自社の研究所が10~50代の女性50名を対象に、約24時間着用した布の香気を評価・分析したと説明しています。また、別の印象評価では52名が香りを嗅ぎながら女性の写真を見ています。これらはメーカーによる研究報告であり、香りを加えると現実の人物が若く見える、あるいは誰にとっても魅力が上がることを示す試験とは別です。
同社の説明にある「若い頃の甘い香り」も、研究上の特定成分を指す表現です。年齢、性別、魅力を測る普遍的な尺度や、ケアが必要だという医学的な判定ではありません。
査読論文は、皮膚から出る量を測定
Sekineらの2023年の査読論文は、健康な参加者が難消化性の糖類ラクチュロースを1日4g、2週間摂取した条件で、皮膚から放散する6種類のγ-ラクトンを分析しています。公開抄録はC10・C11の放散フラックスが増え、便中のビフィズス菌数と関連したと報告しています。
この研究が測ったのは皮膚からの化学成分の放散量です。においの好ましさや体臭の悩みが改善するか、特定のサプリメントや製品を使うべきかを確かめた試験ではありません。抄録の用量を個人向けの摂取方法として受け取らないでください。
商品説明を読むときの確認点
- 「ラクトン」が化学成分名か、香りの印象を伝える表現かを分ける。
- 年齢・性別の説明には、対象人数、測定方法、発表元が書かれているかを見る。
- 皮膚ガスの量を測った結果を、香りの好みや製品の体臭ケア効果と同じものとして読まない。
香水で「ムスク」と呼ばれる表現との違いはラクトンとムスクの比較で紹介しています。
香水の商品説明で使われる「スキンセント」は、皮膚ガスの測定研究とは別の文脈です。用例の違いはスキンセントの意味を整理した記事で説明しています。
参考文献・出典
- IUPAC Compendium of Chemical Terminology: lactonesラクトンを化学構造で定義する用語集。
- 東海大学理学部化学科 (2023), ヒト皮膚から放散するγ-ラクトンの性差および年齢依存性学会ポスター発表の概要を紹介する所属大学の発表記録。
- J-GLOBAL, ヒト皮膚から放散するγ-ラクトンの性差および年齢依存性第36回におい・かおり環境学会講演要旨集の書誌情報。
- ロート製薬 (2018), 女性の「若い頃のニオイ」を解明企業内研究の対象・手順を説明するメーカー発表。
- Sekine et al. (2023), Influence of Ingestion of Lactulose on γ-Lactones Emanating from Human Skin Surface皮膚から放散するγ-ラクトン量を測定した査読論文。